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プロセスマイニングを次のレベルへ

2021.08.31

長年、Celonis社のチーフサイエンティフィックアドバイザーを務めてきましたが、この度、同社のチーフサイエンティストに就任することになりました。新しい仲間と協力してプロセスマイニングを次のレベルに引き上げたいと思っています。これは、私が他のソフトウェアベンダーのアドバイザリーボードの役職から退き、Celonis社に専念することを意味しています。

このステップを踏む理由はいくつかありますが、ここでその理由を説明します。

始まりは?

私がプロセスマイニングに取り組み始めたのは、1990年代後半のことで、その頃、手作りのプロセスモデルでは現実をうまく捉えられないことを実感していました。その結果、ほとんどのワークフロー管理プロジェクトが失敗に終わっていました。

1998年にジョージア大学とコロラド大学で働いていた2年間のサバティカル期間を利用して、実行例から正確なプロセスモデルを発見するという問題について考える時間がありました。そこで、イベントログからペトリネットを学習する最初のアルゴリズムの開発に着手し、「Process Design by Discovery」というプロジェクト提案書を作成しました。これは後に研究教育機関のBETAから資金提供を受けました。私の提案では、プロセスマイニングを「実際のプロセス実行からプロセスモデルを抽出する手法」と定義しました。これが、プロセスマイニング分野の始まりと見なせるでしょう。

オープンソースのプラットフォーム「ProM」を開発し、短期間で多くの異なるプロセスを組み合わせることができたのは、プロセスマイニングの範囲がはるかに広いことがすぐにわかったからです。その中には、適合性チェック、パフォーマンス分析、意思決定・組織のマイニング、プロセス予測などのために開発した技術も含まれていました。

しかし、私は意図的にこれらのプロセスマイニングのスタートアップに金銭的には参加せず、今まで独立した立場を貫いてきました。なぜ私がCelonisに入社するのかを説明するためには、まず、プロセスマイニングという学問の発展と、プロセスマイニングソフトウェアの役割の変化について説明する必要があります。

何が変わったのか?

この20年間で、プロセスマイニングはひとつの分野として成熟しました。今では世界中でプロセスマイニングに取り組む研究グループがあり、ICPM(International Conference on Process Mining)などの専門会議も開催されています。

プロセスマイニングの導入により、ビジネスプロセスマネジメント(BPM)の研究は完全に変化しました。実際のプロセスについてほとんど語っていないBPMNモデルの作成に時間とお金を費やすことは、もはや許されません。さらに、何十種類もの商用プロセスマイニングツールがあり、多くの大規模な組織がプロセスマイニングを採用しています。

Celonisの特徴

当初、プロセスマイニングツールは、データサイエンスの考え方を持つプロセスアナリストに焦点を当てていました。プロセスマイニングは、改善プロジェクトの中で行われ、継続的な活動ではありませんでした。Celonisは、専門家でなくてもプロセスマイニングの結果を継続的に利用できるようにした最初のプロセスマイニングベンダーです。プロセスマイニングは多くの人が毎日使うものであるというビジョンのもと、Celonisは誰もが認めるマーケットリーダーとなりました。

私が20年以上前に取り組み始めたプロセスマイニングの問題(プロセス発見、適合性確認、プロセス予測など)の多くは、今でも研究されています。これらの問題は完全には解決されておらず、毎年のように大きな改善が見られます。しかし、この分野が成熟するにつれ、(1)洞察から行動へ、(2)構造化されたイベントログやプロセスから複雑に絡み合ったデータソースやプロセスへと焦点が移ってきています。

プロセスマイニングの研究も、大学の研究室でオフラインにて行われるイベントログの分析(「in vitro」)から、企業内で行われるアプリケーションや実験(「in vivo」)へと移行しつつあります。後者の研究では、プロセスマイニングのパイプラインを完全に展開し、生産に耐えうるプロセスマイニングソフトウェアが必要となります。そのためには、大学の研究グループ、ソフトウェアプロバイダー、エンドユーザーの間で、より緊密な協力関係が必要となります。

このようなパイプラインを研究者がオープンソースソフトウェアで作成し、維持することは現実的ではありませんので、ドイツのアーヘン工科大学の私のPADS研究グループとCelonis社とのコラボレーションを強化していきたいと思っています。

プロセスマイニングの次は?

量子論の育ての親、ニールス・ボーアは言いました「予測することは難しい、とりわけ未来の予測はね」。とはいえ、いくつかの明確な進展があります。

1.後ろ向きのプロセスマイニングから前向きのプロセスマイニングへ

プロセスマイニングの当初の焦点は、過去のイベントデータを分析して、パフォーマンスやコンプライアンスの問題を検出・診断することでした。これは非常に価値のあることであり、低い枝に生る果実(すなわち、明白で達成が容易なプロセス改善)を捉えるのに役立ちます。しかし、新たなパフォーマンスやコンプライアンスの問題が予期せず発生する可能性があり、どのようなアクションを取るべきかがそれほど明らかではない場合があります。そのため、機械学習を用いた予測技術や、what-ifの質問に答えるためのデータ駆動型のシミュレーションなど、将来を見据えた形でのプロセスマイニングが必要となります。

これらの技術は、従来のプロセス発見や適合性確認の技術をベースにしています。したがって、プロセスマイニングのコア技術の革新は、より正確な予測とより現実的なシミュレーションにもつながります。プロセスマイニングは、生産ライン、空港、サプライチェーン、病院、その他の組織のデジタルツインを作成する上で重要な役割を果たすでしょう。

2.インサイトからアクションへ

最終的な目標は、洗練された分析結果を提供するだけでなく、業務プロセスを根本的に改善することです。そのため、プロセスマイニングの診断結果(パフォーマンスやコンプライアンス上の問題など)は、実行可能なものである必要があります。そのためには、将来を見据えたプロセスマイニングで迅速に対応し、是正措置を講じるワークフローを起動させることが重要です。

ワークフローの自動化に携わってきた私は、プロセスマイニングとワークフローの自動化の分野が融合することに期待しています。プロセスマイニングは、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)の機会を特定するのに役立ち、ローコードでビジュアルな統合プラットフォームを使ってワークフローやアプリケーションをサポートすることができます。

3.孤立したプロセスからプロセスの集合体へ

プロセスマイニングを行うためには、各イベントが少なくとも3つの属性(ケースID、アクティビティ名、タイムスタンプ)を持つイベントのコレクションを持つ必要があります。したがって、プロセスマイニングの機会はどこにでもあります。しかし、複数のシステムの何十ものデータベーステーブルからこのようなデータを抽出するのは非常に時間がかかり、さらに、異なるケースの概念(例:注文、アイテム、配送、支払い、顧客)が絡み合っている可能性があります。

つまり、プロセスマイニング技術は、プロセスやシステムの本当の姿に近づく必要があるのです。オブジェクト中心のプロセスマイニングは、異なるケースの概念を全体的に結びつけることで、データ抽出を加速し、相互に関連するプロセスをさまざまな角度から見ることを可能にします。

プロセスマイニングの範囲は、使用される技術(例えば、自動化、機械学習、シミュレーション、最適化などとの結びつき)と新しいアプリケーションの両方の観点から、さらに拡大するでしょう。当初、プロセスマイニングは購買~支払い(P2P)や受注~入金(O2C)などの標準的なプロセスに適用されることが主流でした。しかし、プロセスマイニングは、生産、原材料管理、流通、医療、教育、サービス提供などのプライマリープロセスの改善にも利用でき、また利用しなければなりません。

なぜCelonisなのか?

Celonisは、プロセスマイニングの分野では誰もが認めるマーケットリーダーであり、先に述べた3つの進展を活用する上で有利な立場にあります。Celonis Execution Management System(EMS)プラットフォームは、予測やシミュレーションなど、将来を見据えたプロセスマイニングをサポートします。Celonis EMSは、アクションフローを設計し、トリガーすることができます。この機能は、昨年のIntegromat社の買収によって大きな力を得て、プロセスマイニングのインサイトをアクションに変えることができるようになりました。さらに、マルチイベントログなどの機能を使って、異なるプロセスをつなぐことができます。

Celonisは常に、多くの関係者によるプロセスマイニングの継続的な利用を目指している数少ないベンダーの1つです。現在、同社には、データ量(数十億のイベントを扱う)とユーザー数(最大数千人のアクティブユーザー)の両面で、かつてない規模のプロセスマイニングを適用している顧客が多数います。

前述したように、プロセスマイニングの研究は、組織内部でのアプリケーションや実験にますます依存するようになるでしょう(「in vivo process mining」)。したがって、私の同社チーフサイエンティストへの就任は論理的な選択であり、そのための適切な時期であるといえます。

長年、チーフサイエンティフィックアドバイザーを務めてきたので、多くの素晴らしい社員達を知っています。驚くべき成長、技術革新、前向きな企業精神、そして3人の創業者、Alex Rinke、Bastian Nominache、Martin Klenkに深い感銘を受けています。彼らのお互いを補完するスキルがCelonisの成功の秘訣だと信じています。Alexは数学を専攻しており、点と点を結びつけ、戦略を明確に伝えることに長けています。BastianはビジネスとITマネジメントに精通しており、ドイツで最も急成長しているIT企業を統率することに意欲を燃やしています。Martinは、優れたソフトウェアの構築やアーキテクチャーに興味を持つ、生粋のコンピューターサイエンティストです。

このスキルとキャラクターの組み合わせにより、素晴らしいサクセスストーリーが生まれました。その一端を担えたことを嬉しく思います。

私は何をすべきか?

私は、チーフサイエンティストとしての新しい役割と、アーヘン工科大学での教授職を両立させ、引き続きPADS(Process and Data Science)グループをリードしていきます。その目的は、産学連携を強化し、研究成果を広く使われている産業用の強力なソフトウェアに移すまでの時間を短縮することです。これにより、プロセスマイニングや業務実行管理の分野での研究開発を加速させていきます。

同社の製品およびエンジニアリングチームと密接に連携し、プロセス発見の改善、スケーラブルな適合性チェック、シミュレーション、予測、自動化、マルチイベントログなど、新しいプロセスマイニング技術を発展させていきます。また、同社の研究開発ロードマップをさらに発展させ、共同プロジェクトに取り組む博士達を指導し、学術研究をCelonis EMSに移転することを促進します。私はCTOであるMartin Klenkの直属となります。また、また、Jerome Geyer-Klingebergが率いるCelonis Academic Allianceと密接に連携していきます。

私のチーフサイエンティスト就任とは関係ありませんが、今年後半に発売予定のプロセスマイニングに関するCelonisとアーヘン工科大学の共同講義をすでに収録しました。この講義は、プロセスマイニングの理論とCelonisソフトウェアを結びつけるものです。

Celonisの仲間達と一緒に、エキサイティングな研究イノベーションと市場をリードするプロセスマイニングプラットフォームを組み合わせることで、プロセスマイニングを次のレベルに引き上げたいと思います。 Wil van der Aalst

独アーヘン工科大学およびフラウンホーファー応用情報技術研究所(FIT)のフンボルト特別教授

Wil van der Aalst教授は、アーヘン工科大学の正教授で、プロセスデータサイエンス(PADS)グループを率いています。また、フラウンホーファー応用情報技術研究所(FIT:Fraunhofer-Institut für Angewandte Informationstechnik)のプロセスマイニンググループとアイントホーフェン工科大学(TU/e)(オランダ)にも非常勤で所属しています。研究テーマは、プロセスマイニング、ペトリネット、ビジネスプロセス管理、ワークフロー管理、プロセスモデリング、プロセス分析など。

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