お客様事例:セイコーエプソン株式会社

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セイコーエプソン株式会社は、Celonisによる客観的なデータ可視化により、従来は把握しづらかった業務の非効率を明確化。わずか5カ月で23.5人月分に相当する生産性向上効果を特定しました。手作業発注や例外処理の原因分析、入庫処理自動化の阻害要因、やり直し作業や紙の請求書対応など具体的な課題を可視化し、具体的な改善アクションへと繋げています。

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調達プロセスの可視化・分析を通じて、5カ月で改善計画を策定。現在、23.5人月分の生産性向上に向けた取り組みが本格化している

これまで実態を掴めていなかった手作業による業務の実態をデータで把握し、具体的な改善アクションへと繋げた

データに基づいた議論が可能となり、日本側と現地法人が一体となった改善活動が加速

最初のプロジェクトの成功により、他プロセスへの展開に向けたCelonis活用の可能性を実証

5カ月で23.5人月の改善効果を特定!セイコーエプソンの事業部門と海外製造拠点が一体となり挑むプロセス改革

「データに基づく変革と改善に期待して日々邁進している」——そう語るのは、セイコーエプソン ビジュアルプロダクツ事業部の本田陽一氏だ。中国とフィリピンで計11年間、生産管理の最前線に立ち続けてきた本田氏は、海外拠点での業務品質課題に直面し、従来のやり方では限界があることを痛感していた。

そんな折に出会ったのが、プロセスマイニングソリューション「Celonis」である。調達プロセスから始まったプロジェクトは、わずか5カ月間で23.5人月の生産性改善効果を見出した。しかし本田氏が何より価値を感じたのは、データを通じて現地法人との一体感を醸成できたことだという。海外製造業における現場起点のデジタル変革は、どのように実現されたのだろうか。

導入の背景:改革の原点は、海外製造現場のリアルな苦労

長野県諏訪市に本社を構え、プロジェクターやプリンターで世界トップクラスのシェアを誇るセイコーエプソン。腕時計や産業用ロボットまで幅広い製品を手がけるグローバル企業であり、海外含め89社のグループ会社を展開する。

入社以来、一貫して生産管理・調達業務に携わってきた本田氏は、中国・深圳で9年、そしてフィリピンで2年間、計11年間の駐在経験を持つ。その豊富な海外経験こそが、今回の改革の出発点だった。特に、2021年から22年にかけて駐在したフィリピンの拠点では、コロナ禍という未曾有の事態が、現場の脆弱性を浮き彫りにしたという。

「現地スタッフの能力のばらつきが大きく、仕事のリワークも多々発生していました。優秀な人材も、リワークのためのサポートに追われる日々。コロナ禍ということもあって、部品の不足や過剰発注が生じたり、製品の出荷遅れを挽回するために高額な航空輸送費を使ったりなど、さまざまな苦労を現場で味わいました」(本田氏)

このままではいけない。今までと同じようなやり方では進歩しない——。肌で感じた危機感が、本田氏を突き動かした。

ソリューション:データが繋ぐ、日本とフィリピンの一体改革

強い課題意識を胸に、本田氏が改革の最初のターゲットとして選んだのは「調達」プロセスだった。工場オペレーションには、生産工程、在庫管理、ファイナンスなどさまざまな領域があるが、なぜ調達から始めたのか。その理由について本田氏はこう語る。

「調達は一連のプロセスのなかでも末端に位置し、多くの課題が顕在化しやすい領域でした。既存のやり方からの変革が必要だと感じており、データを用いて現状を正確に把握することで課題を明らかにできるのではないかと、Celonisのプロセスマイニングに期待を寄せていました」(本田氏)

SAPとの親和性の高さという観点でも、Celonisは最適な選択肢だった。

2025年1月、プロジェクトは本格的に始動。しかし、メンバーは日中の通常業務にも追われるため、いかにしてプロジェクトの時間を確保するかが課題だった。そこで、Celonis側の協力も得て、週2回、朝8時からの定例会を重ね、スピーディにプロジェクトを推進した。

IT部門の繁忙期と重なるなど、データ取得の段階で多少の苦労はあったものの、本田氏は「いったんデータを取得してしまえば、その後は非常にスムーズだった」と振り返る。Celonisが持つテンプレート(スターターキット)の活用により、課題の当たりを素早くつけ、具体的な分析フェーズへと移行できた。

分析が進むなかで、本田氏は「より解像度の高い分析をするためには、現場との議論が不可欠」と判断。2025年4月末、日本のメンバーとCelonisの担当者とともにフィリピンへ飛び、3日間の集中ワークショップを実施した。

「現地法人の社長の支援も得て、現場のメンバーと一緒に取り組みました。皆が同じ場所で同じ苦労をしてきた仲間という意識が、大きな力になったと感じます。3日間会議室にこもり、侃侃諤諤と議論を重ねた結果、非常に集中度の高い有意義な場となりました」(本田氏)

この深い協働が実現できた背景には、Celonisとの独特なパートナーシップがあったと本田氏は続ける。

「Celonisは、最初から当社の業務に精通していたわけではありません。そのぶん、密にコミュニケーションを取り、真剣な議論を重ねることで、少しずつお互いの波長が合っていく。そうしたプロセスを厭わず、深く関わっていただけたことが非常にありがたかったです。だからこそ、『一緒にやっていこう』と思えるプロジェクトが組めたと思っています」(本田氏)

導入効果:データが見せた「知らなかった7割」の現実

現場での議論を加速させたのは、Celonisによって可視化された客観的なデータだった。これまで漠然と問題だと感じていたことが、具体的な数値やプロセスフローとして目の前に現れたのだ。議論の結果、大きく4つの改善領域が見出された。

1. フリーテキスト発注の改善: 製造業界のなかでも同社のような組立業では一般的に、MRP(資材所要量計画)システムによる自動発注が中心となる。しかし、消耗品や補材などに関しては、手作業によるフリーテキスト発注が多数存在しており、何をどれだけ購入しているのか集計できない、あるいはコストダウン交渉につなげられないといった状況だった。本田氏は「課題の存在は認識していましたが、データで見ると想像以上の規模であることが判明しました」と明かす。

2. 入庫処理の自動化促進: 入庫処理はRFIDを導入して一部自動化を進めていたが、エラーや緊急依頼などにより、手動受け入れを含む例外的なオペレーションが生じていることが判明。本田氏は「サプライヤーごとに具体的な問題箇所を特定することができました」と話す。

3. マニュアルリワークの削減: PO(購買発注書)発行後の価格・数量変更や削除といったやり直し作業が、予想以上に発生している実態が可視化された。

4. 請求書照合の自動化: ローカル・サプライヤーから送付される紙の請求書とシステム上の請求書の照合に、1件あたり5分の労力が発生していた。本田氏は「サプライヤーと当社の認識に齟齬がないか確認するプロセスにおいて、改善の余地があることがわかりました」と説明する。

こうした発見は、本田氏にとっても衝撃的だったという。「日常業務に追われるなかでは、現場の末端業務まで正確に把握することは困難でした。実際のデータを見ることで、こうした問題が発生していることを改めて認識させられました。想定どおりだった部分が3割程度、新たな発見が7割程度という印象です」(本田氏)

データという”共通言語”があったからこそ、日本とフィリピンのメンバーは同じ課題を共有し、上記の具体的な4つのユースケースにおいて、23.5人月という生産性改善効果を見積もるに至ったのだ。

今後の展開:改革の波は、「調達」から「生産管理」「在庫」、そして全社へ

調達領域での成功を受けて、本田氏は次のステップとして生産管理・在庫領域への拡張を計画している。特に在庫管理は複雑性が増している領域だ。

「コロナ禍により半導体が売り手市場となり、長期契約による在庫確保や、ディスコン部品の管理など、在庫管理が非常に複雑化しています。特に組立業では品目点数が多いため、複雑性がさらに増しており、手作業では対応しきれない状況です。こうした領域に踏み込んでいきたいと考えています」(本田氏)

今後の展開としては、複数システムにまたがる情報の一元管理が重要になる。在庫管理においては、BOM(部品表)とMRPシステムの組み合わせ、仕入れ部品のディスコン情報、販売製品のEOL情報などが複合的に組み合わさって在庫が決定される。「これらを一元管理し、適正な在庫管理を実現したいと考えています」と本田氏は意気込む。

プロセスマイニングによって、思わぬ発見があり、そこから改善が始まる。その手応えを、本田氏は強く感じている。現場の苦労を知る一人のリーダーから始まった変革の波は、今、部門や国境を越え、サプライチェーン全体を最適化する大きなうねりになろうとしている。セイコーエプソンの挑戦は、まだ始まったばかりだ。