「Process Intelligence Day Tokyo 2025」開催―「No AI without PI(プロセスインテリジェンスなしにAIなし)」 イベントレポート第一弾
Celonis は、2025年7月9日、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて年次イベント「Process Intelligence Day Tokyo 2025」を開催。日本の企業に向けてプロセスマイニングの最新動向やその活用事例を紹介しました。本稿では、各講演の重要なポイントを抜粋して紹介します。なお、イベント当日の各講演については、こちら からご覧いただけます。
学術的アプローチから始まった挑戦が、グローバル企業の変革を導く
基調講演では、Celonis 共同創業者 兼 CEOのBastian Nominacher(バスティアン・ノミナヘル)が登壇。ノミナヘルは、Celonis設立からの経緯を説明し、「私たちは、全ての企業のビジネスプロセスを“機能する”ものに変える支援をしている」と、Celonisのミッションを語りました。
Celonisは2011年、学術的な探求心から生まれました。最初のプロジェクトはバイエルン放送局のITヘルプデスクで、5日かかっていた対応がプロセス改善により1日に短縮。この成果からプロセスマイニングの可能性を確信したと、ノミナヘルは当時を振り返ります。
その後も「どの業種でもプロセスの可視化と改善により企業の価値を高める」ことをミッションにして進化を重ね、2018年には第5世代の「Intelligent Business Cloud」を、2020年には改善アクションまで一貫して支援する「Execution Management」を発表。2024年には、オブジェクト指向によるプロセス分析を可能にする「プロセスインテリジェンス」に踏み出し、データソースを問わず360度のデジタルツインを実現しています。
ノミナヘルは、ファイザーが数億ドル規模の価値を創出した事例やBOSCH、BMWといったグローバル企業におけるプロセス変革の事例を紹介。今後の展望について「データの全体像を捉え、AIやエージェントソリューションと連携することで、自律型エンタープライズの実現を目指す」と語るとともに、日本とドイツに共通する「少子高齢化」と「生産性向上」という課題に言及し、プロセスインテリジェンスがその解決の鍵となることを力強く訴えました。
日本を変革する「プロセス」のチカラ
続いて、Celonis株式会社 代表取締役社長の村瀬 将思が登壇。「日本を元気にしたい」という力強いメッセージで講演をスタートしました。現在の日本は少子高齢化や労働生産性の低下といった内部要因に加え、世界情勢の急変という外部要因により、多くの日本企業が事業戦略やオペレーションの見直しを迫られています。村瀬は、こうした危機的状況を乗り越え、変化に追随できる組織になるための鍵が「チェンジマネジメントの実践」にあると話します。
この激しい変化に追随できる組織になるためには、データでチェンジマネジメントを実行できる「チェンジメーカー」の育成が不可欠です。村瀬はこのチェンジメーカーがCelonisのプラットフォームを活用して、複雑に絡み合ったスパゲッティ状のプロセスを解決することが最も重要だと示しました。
プロセス改善には、AIの活用も欠かせません。しかし村瀬は、「AI単独では限界がある」と指摘し、「ChatGPTに“美味しいレストラン”は聞けても“自社の在庫最適化”は聞けない。AIはあなたの会社のプロセスの文脈を知らないからです」と言います。AIが真価を発揮するには、企業のリアルな業務プロセスをインプットする「プロセスインテリジェンス(PI)」が不可欠だからです。
Celonisは、この課題を解決するため、対話型・支援型、そしてPIと連携する自律型という3つのAIソリューションを提供します。村瀬はこれらのソリューションを活用することの意義について、「プロセスを進化させて機能させることで日本の人々の働き方を変え、もう一度日本を元気にすることができる」と熱く語りかけ、講演を締め括りました。
「AIがあらゆる領域に浸透する時代」のフロントランナー企業へ
続いて、日本電気株式会社(NEC) 執行役 Corporate EVP兼CIOの小玉 浩 様は、データドリブン経営への取り組みについて講演。冒頭、「AIがあらゆる領域に浸透した世界を見据えて、実態が分かりにくいプロセスを可視化してマイニングすることが非常に重要」とプロセス変革の必要性を強調しました。
同社のプロセス変革の核となっているのは、Celonisによるプロセスマイニングです。当初約1,000と想定していたプロセスが、実際には約12,000の複雑なスパゲッティ状態であることが判明。小玉様は、「あの時のインパクトは、今でも忘れられません」と振り返ります。
この「見える化」を起点に、同社は粗利率を5.5%向上をはじめとしたさまざまな成果を上げていきます。サプライチェーン領域では、AIによるサジェッションの導入などを行い、在庫調整時間を83%削減し、欠品リスクも大幅に削減。営業領域ではプロセスの標準化による業務改善や、基幹システムのクリーン化など、多分野での変革を成し遂げています。
現在はサイバー空間におけるリスク・脅威などの可視化に加え、社内ITや社員の働き方、災害などが各事業所にどう影響を与えるのかをダッシュボード化し、データドリブンな経営を実践。社員のエンゲージ指数50%達成を目標として文化変革に取り組んでいます。
小玉様は「AIは労働力であり、パートナーでもあり、自らの分身でもある」と評した上で、「これからのNECは”変革をリードするAIネイティブカンパニー”として、新たな時代を作っていきたいです」と意気込みを語りました。
「リーダーシップ」と「ボトムアップの力」の両輪には、プロセスとデータの可視化が必要
続いて登壇された、日本オラクル株式会社 取締役 執行役 社長の三澤 智光 様は、同社のクラウドおよび業務改革支援の取り組みについて語りました。
「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」は多くの企業のミッションクリティカルシステムに採用され、日本で高まるデータ主権や運用主権といったソブリンクラウド要件にも対応したクラウドを、富士通をはじめとしたパートナー企業と提供している点を三澤様は話しました。
また、「Oracle Fusion Cloud Applications(SaaS)」では、オラクルがグローバルでERP市場をリードしていることに触れながら、国内でも成果をあげている事例の一つとして本田技研工業における間接材調達変革の事例を紹介。SaaSを活用し間接購買業務を標準化、効率化することで大幅なコスト削減を実現、購買部門がプロフィットセンター化しつつある事例と三澤様は話しました。
こうした成功体験を踏まえ三澤様は、日本企業の業務改革には、「強いリーダーシップ」と、日本の強みである「ボトムアップの力」の両輪が不可欠だと話します。特に日本は現場の力が強く、「Celonisのようなツールによってサイロ化されたプロセスの可視化が進めば、組織全体の判断と連携が促進されます」と指摘しました。
最後に三澤様は、AIの活用にも言及。「整備されたデータとプロセスに加え、そのデータが持つ文脈(コンテキスト)をAIに学習させることが不可欠」と語り、そのための基盤づくりに、今後もCelonisとともに支援していきたいと締め括りました。