「Process Intelligence Day Tokyo 2025」開催―「No AI without PI(プロセスインテリジェンスなしにAIなし)」 イベントレポート第四弾
Celonis は、2025年7月9日、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて年次イベント「Process Intelligence Day Tokyo 2025」を開催。日本の企業に向けてプロセスマイニングの最新動向やその活用事例を紹介しました。本稿では、各講演の重要なポイントを抜粋して紹介します。なお、イベント当日の各講演については、こちら からご覧いただけます。
業務プロセスの見える化がもたらす価値創出への期待と北陸電力送配電の挑戦
引き続き、北陸電力送配電株式会社の事例セッションでは、同社 理事 情報システム部長の山下 益功様が登壇。「去年のイベントに参加してCelonisに触れ、これは面白いと思った」という率直な言葉で、プロセスマイニング初心者としての取り組みを紹介しました。
同社はトヨタ式のカイゼンとDX化の両輪で生産性向上に取り組む一方、「業務プロセスの可視化とモニタリングを、スマートに労力をかけずにできないか」と課題意識を抱いていたと山下様は言います。そうした中でCelonisに出会い、購入者情報などの業務ログを活用した新たな価値創出への挑戦を決意したのです。
業務プロセスの可視化検証では、50品目のコスト低減余地や処理時間が部門間で「2時間」と「2日」も違う格差を発見。さらに、一見無駄に思えた工程が過去の不正再発防止策だったと判明し、「これもCelonisで代替できるのではないか」と、本質的な改善議論にも発展しました。山下様は「調達費削減の可能性をタイムリーに検出できるのが大きい」と実感を述べた上で、「データから分かることがある」という気づきの重要性を強調します。
今後について山下様は、「Celonisの適用を設備管理や保守プロセスにも拡大したい。待ち時間や移動コストなど、価値を生まない部分が随所にある」とさらなる活用に意欲を示します。その一方で、「業務プロセス可視化がもたらす価値を、業務部門とシステム部門がしっかり掘り起こせるかが重要」と、組織全体での挑戦の必要性を強調しました。
プロセス・IT・データ三位一体のリコー流 オペレーショナルエクセレンスにおけるCelonis活用
株式会社リコー様の事例セッションでは、同社デジタル戦略部 プロセス・IT・データ統括 ワークフロー革新センター エキスパートの田中 諭様、同センター プロセスDX推進室 アナリティクスグループ リーダーの新井 陽子様、同部 プロセス・IT・データ統括 DX企画室 イノベーション推進グループ リーダーの櫻井 陽一様が登壇。DX活動におけるプロセスマイニングの活用事例を紹介しました。
同社ではRPAやAIをはじめとしたボトムアップの業務プロセス改革からDXを進めており、DXの範囲と質を担保するための方法論を「プロセスDX」の型としてまとめ、推進してきました。その後、より範囲を広げて、プロセス、IT、データの統括組織を発足し三位一体で取り組んでいます。田中様は「プロセスDXにおいては、デジタルの手段に行く前に最適化を徹底しました」と振り返りました。
続いて新井様は、米国事業におけるオーダー to キャッシュのプロセス改善プロジェクトを紹介。プロセスマイニングの成功確率を上げるために、①分析の方向性を定める「Purpose(目的)」、②変革を起こせる人を巻き込む「People(人材)」、③データの質と量を担保する「Process(プロセス)」という「3つのP」が重要だと指摘しました。
櫻井様は同プロジェクトの成果について、「収益保護や運転資金の最適化など、12個の改善ユースケースが創出された」と報告。さらに、デモによって、納期遅延の原因が出荷後のイベントではなく、ピッキング後の「販売伝票の変更」にあることをOCPM技術で突き止める様子が示され、複数プロセスを横断して分析することの重要性が強調しました。
同社では今後、プロセスオーナーを育成しつつ、USメンバーの巻き込みや他プロセスへのアプローチを通じて、デジタルツインによるデータ駆動型経営の実現を目指す考えです。
セイコーエプソンのビジュアルプロダクツ事業から始めるProcess Intelligenceと業務変革
事例セッションの最後には、セイコーエプソン株式会社 ビジュアルプロダクツ事業部 VP生産管理・調達部 部長の本田 陽一様が登壇。フィリピン工場での調達領域を対象としたプロセスマイニングの実践事例について語りました。
スタッフの能力のばらつきや過剰在庫が課題だったフィリピン工場では、SAPと親和性の高いCelonisを活用し、まず課題が顕在化していた調達領域から改善に取り組みました。5カ月間のプロジェクトでは、Celonisの専門チームと共に朝8時からの定例会を計92回開催してデータの取得・分析を実行。マニュアルリワークや入出庫処理・請求業務の自動化などを通じて、23.5人月の生産性を改善しています。本田様は「発見の7割は気づいていなかった新たな事実で、予想通りだったのは3割程度でした」と、データがもたらす客観的な事実の価値を指摘します。
プロジェクトチームの編成において、本田様は上層部の支援に加え「メンバーが心を1つにして進める」ことが大事だと強調。そのため、現地工場で3日間のワークショップを実施した際にはCelonisチームも同席し、現場を見ながら業務改善について議論したと言います。
最後に本田様は、今後調達領域だけでなく、上流の生産管理も含めたEnd-to-Endでの拡張を計画していると話した上で、「プロセスマイニングはやってみると思わぬ発見があります。しかし、その発見をもとに改善を実行するのは“自分たち”だという思いを持つことが重要です」と当事者意識の重要性を示し、講演を締め括りました。