基調講演
イベントレポート第一弾では、基調講演の内容についてご紹介します。本イベントは、Celonis 共同創業者 兼 CEOのBastian Nominacher(バスティアン・ノミナヘル)が登壇する基調講演よりスタートしました。
Celonisは、2026年7月28日、ANAインターコンチネンタルホテル東京にて、「Process Intelligence Day Tokyo 2026」を開催しました。本イベントでは、「Make Enterprise AI Work(エンタープライズAIの実用化)」をテーマに、AIを業務に定着させて具体的な価値を生み出すためのロードマップや、国内外の先進事例をご紹介しました。本稿では、基調講演の内容をご紹介します。
なお、イベント当日の各講演については、こちらからご覧いただけます。
イベントレポート第一弾では、基調講演の内容についてご紹介します。本イベントは、Celonis 共同創業者 兼 CEOのBastian Nominacher(バスティアン・ノミナヘル)が登壇する基調講演よりスタートしました。
基調講演では、Celonisの共同創業者/共同CEOであるバスティアン・ノミナヘルが登壇し「Make Enterprise AI Work(エンタープライズAIの実用化)」をテーマに、グローバルでの最新事例を交えながら、Celonisの進化について語りました。
バスティアンはまず、エンタープライズAIをめぐる企業の実情を説明しました。多くの企業がAIへの投資を増やし続ける一方で、投資に見合う十分なリターンを得られずにいます。チャットボットなどの試験的なAI活用が進んでも、それを基幹業務へ大規模に展開しようとすると、壁にぶつかるためです。原因は、データが存在していても業務の全体像を把握できない「ブラインドスポット(見えない部分)」にあります。基幹業務でAIを活用するには、高い「正確性」が欠かせません。同時に、費用対効果も確保する必要があるとバスティアンは指摘しました。
正確性と費用対効果の両立を支えるのが、Celonisが15年にわたり築いてきたプロセスインテリジェンスです。「ビジネスの流れを最も正確に表すのはプロセスである」という信念のもと、同社は業務の流れを可視化する「プロセスマイニング」から、散在するデータを結び付け、業務を文脈とともに理解する「プロセスインテリジェンス」へと発展させてきました。
さらにバスティアンは、「Context Model」を紹介しました。これは、Celonisがこれまで積み上げてきたプロセスインテリジェンスにデジタルツインやLLMを組み合わせ、エンタープライズAIを大規模に実用化するためのものだと説明しました。過去に何が起きたかを捉えるプロセス分析に加えて、将来何が起こるかを予測する視点も備えています。組織全体をカバーするコンテキストをAIに提供することで、正確性と費用対効果を両立できるとバスティアンは説明し、セッションを締めくくりました。
続いて登壇したのは、Celonis株式会社 代表取締役社長の村瀬 将思です。バスティアン・ノミナヘルの基調講演で示された「Context Model」について、その内容と実務での活用方法を詳しく解説しました。
村瀬はまず、エンタープライズAIの現在地を示しました。多くの企業がAIを使い始めた一方で、基幹業務で大きな価値を生み出せている企業はごくわずかだと指摘します。
この実態を証明するため、村瀬は会場のビジネスリーダーたちに問いかけました。「すでに業務でAIを活用している方」という問いに対し、会場の8〜9割が挙手。 AIはすでに個人のツールとして深く浸透しています。しかし続けて、「複数部門にまたがる基幹業務で、5億〜30億円規模の大きな価値を創出できている方」と問うと、会場の挙手は瞬時にゼロとなりました。実際、マッキンゼーの最新の調査でも、AIを使い始めた企業が9割にのぼる一方、全社規模で活用できている企業は1割にとどまるとされています。
この劇的な落差こそが、エンタープライズAIの「リアルな現実」です。個人の利便性を超え、企業全体の利益を押し上げる「組織的活用」へと移行するためには、決定的に欠けているピースを埋める必要があります。
そのギャップを埋める鍵が、「ビジネスコンテキスト(業務の文脈)」です。AIは一般的な知識を幅広く扱える一方で、自社の業務変革には、現場の実務に根差した知見が欠かせません。たとえば在庫の再発注判断をAIに委ねる場合、業務コンテキストのないAIは一般的な回答しか示せません。しかし、在庫切れリスクや適正在庫水準、調達リードタイムといった業務コンテキストを与えれば、自社の状況に即した具体的な対応策を提示できるようになると、村瀬は説明しました。
ただし、このコンテキストを構築するのは容易ではありません。必要なデータやノウハウが複数のシステムやドキュメントに分散しているほか、社員の「経験と勘」に依存しているためです。そこでCelonisは、企業内に蓄積された業務データから、企業独自のコンテキストを生成する「Context Model」を提供します。過去・現在の状況を捉え、将来を予測するこのコンテキストをデータとAIの間に置くことで、AIエージェントはゼロから情報を探索・推論する必要がなくなり、精度とコスト効率が高まると説明しました。
実際、コンテキストの有無を比較したCelonisの社内検証では、回答の正答率が54%から91%に向上し、トークン消費量はコンテキストなしの場合の約4分の1、処理速度は6倍になったといいます。村瀬は、Celonisが「AIスタックの最後のピース」になると位置づけ、企業のAI活用の本格化を支援していく考えを示し、講演を締めくくりました。
.基調講演では、弊社村瀬との対談セッションも行われました。まず登壇したのはMS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社 専務執行役員 CDOの本山 智之様です。そこでは、業務プロセスの可視化とAIの活用について語られました。
損害保険業界では近年、お客様の信頼を損なう事象がつづき、抜本的な対策として同社は業務改善にとどまらないビジネスモデルの変革を目指しています。その変革を実現するための最大の障壁は業務の複雑さです。国内で約2,000万人に提供されている自動車保険は、200~300に及ぶ特約と支払方法の組み合わせにより、契約パターンが3兆1,000億通りに達していました。
複雑なのは商品だけではありませんでした。Celonisで業務データを可視化すると、さらに驚くべき実態が判明します。ほぼ一直線のプロセスを想定していたものの、実際には188万通りの業務プロセスが存在していました。全国300以上の拠点が、独自に点検強化や効率化を進めた結果、二重チェックの実施率や、やり方にばらつきが生じ、差異が積み重なっていたのです。「標準化されていると思っていた業務は、標準化されていなかった」と本山様は振り返ります。
同社はこの気づきを組織改革につなげます。掲げたのは「事務効率化」から「究極の顧客体験(CX)へ」という変革の決意です。「営業事務部」を「業務プロセスデザイン部」に改称し、社内での位置づけも経営企画部に次ぐものへと引き上げました。同部が定める「商品サービス開発基準」に基づくチェックを経なければ商品を開発できないルールに見直したことで、社員の意識も大きく変わったといいます。
ビジネスモデル変革を実現するためには、「AIは必要な手段である」と強調しました。まず、「その仕事は本当に必要なのか」を問い、業務を可視化・シンプル化したうえで、お客さまにとって最適な業務プロセスを設計することが重要です。そのうえで、AIを活用して業務を高度化し、人にしかできない仕事を人が担うことで新たな価値を創出します。本山様はこの順序の重要性を語り、セッションを締めくくりました。
次のセッションでは、パナソニック デジタル株式会社 代表取締役 社長執行役員の阿部 裕様が登壇しました。その冒頭で、2021年に始動した全社変革「PX」(Panasonic Transformation)の5年間を振り返りました。当初はIT主導のため「ITの変革」と受け止められがちでしたが、2023年の役員合宿でITという言葉を一切含まない「PXの7つの原則」を策定し、全社員に公開したことが転機となり、コーポレートアジェンダ(経営上の重要課題)へと広がったと語ります。
続けて阿部様は、2022年から4年間にわたる、約30テーマでのCelonisの活用を、SAP S/4HANAへの移行、間接部門への標準化の展開、プロセス統制の3つに整理して説明しました。Celonisを導入して確認したところ、移行時に現場が「絶対に必要」としたカスタマイズの約7割が使われていなかったと判明し、データを根拠に不要な作り込みをやめるという共通言語ができたといいます。
さらに阿部様は、ITが現場に貼り付き続けることはできないとして、業務部門が自らAIでデータにアクセスし、課題を解決する姿を目指すとしました。属人的になりがちな調達リードタイムの設定を、AIが推奨する値へ置き換える取り組みも紹介しています。
今後の展望として挙げたのは、単一業務にとどまらないエンド・ツー・エンドのサプライチェーン最適化です。職能ごとに分断された部分最適化を超えるため、複数のプロセスやアプリケーションを横断できるOCPM(Object-Centric Process Mining)に期待を寄せ、重要課題であるキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の短縮につなげたいと語りました。
最後に阿部様は「変革の主役はAIでもシステムでもITでもなく人である」と強調。現場・現物主義の原点に立ち返り、AIとプロセスインテリジェンスを徹底的に活用して現場の能力向上を図り、現場からの価値向上を参加者とともに実現したいと呼びかけました 。
続いてマクニカホールディングス株式会社 執行役員 兼 株式会社マクニカ IT本部長の安藤 啓吾様が、全社AI変革とCelonisの活用について語りました。
同社が掲げるのは「AIネイティブカンパニー」への進化です。一部の人がAIを使うのではなく、あらゆる業務に当たり前にAIが組み込まれた状態を指します。「AIが点ではなく、流れになって業務に組み込まれている状態を目指している」と安藤様は強調しました。人が主導する「Assisted AI」から、人とAIが役割を分担する「Workflow-Automation」、さらにAIが自律的に業務を実行する「AI-Driven」へと段階的に進める構想です。
この取組みを支えるのがCelonisです。基幹システムの刷新により業務の標準化は進んだものの、さらなる生産性向上には現場の経験や勘に頼った改善には限界があり、データから客観的に改善点を見つける手段として、Celonisの活用を開始しました。2023年度に実施した、商談から受注までの領域でのパイロットを起点に、購買・債権債務領域へと適用範囲を広げてきました。
具体例として紹介されたのが、複数の機能を集約した処理の簡素化、メールなど非構造化データをAIで解釈する受注エラー対応の自動化、ITサポートにおける対応策の自動提案です。いずれも鍵となるのが「プロセスコンテキスト」だと安藤様は語りました。複数システムのログや対応履歴から、いつ、誰が、何を、なぜ行ったのか、その背景も含めて読み取ることで、例外処理を含めた、実際の業務に即した処理の実行が可能になります。
今後はAI、プロセス、データを統合するプラットフォームを整備し、Celonisをその中核に据えて全業務プロセスの自動化・自律化を目指しています。安藤様は、「人がAIを使う会社から、AIがいて当たり前で、人がより活躍できる会社へ進化したい」と述べ、講演を締めくくりました。
続く対談セッションでは、日本マイクロソフト株式会社 執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長の岡嵜 禎様が、CelonisとMicrosoftの協業について語りました。Celonisは国内の稼働環境でMicrosoft Azureを採用しており、両社のエンジニア同士でも協力しているとし、この協業はAI時代にさらに加速すると述べました。
AIの進化について岡嵜様は、現在は約1時間かかる処理を人間と同程度の精度でこなせる水準に達し、Copilotも、AIエージェントが依頼内容を自律的に実行する段階へ進化していると紹介しました。
一方で、AIに任せるだけでは価値は生まれないと指摘しました。「優秀な人材が入社しても、仕事や人との関係を理解して初めて十分なパフォーマンスが出せる。AIエージェントも同じ」と述べ、企業のコンテキスト(組織知)をいかにAIに与えるかが重要だと強調しました。
Microsoftはこうした情報を「Microsoft IQ」として体系化し、メールやMicrosoft Teamsから業務文脈を捉える「Work IQ」、ビジネスデータを統合する「Fabric IQ」、回答を組み立てて生成する「Foundry IQ」、社外情報を取り込む「Web IQ」を提供。ここにCelonisのContext Modelを「Process IQ」として組み込む構想を示しました。
続くデモでは、受注から代金回収までの一連の業務である「Order-to-Cash」をテーマに、滞留している与信承認について、担当者が多忙で承認が追い付かない案件はAIが権限や実績をもとに代理承認者を提案し、チャットで確認して処理を完結させる流れが示されました。
最後に岡嵜様は「地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」というミッションの実現を、Celonisとの協業で加速させたいと締めくくりました。
最後の対談セッションに登壇したのは、データブリックス・ジャパン株式会社 代表取締役社長の笹 俊文様です。ここでは、CelonisとDatabricksの連携について語られました。
AI活用に不可欠なのはデータですが、笹様は「集計したデータだけではなかなかうまくAIが動きません」と指摘します。予測精度を高めるには生データや機器のログまで扱う必要があり、同社はデータウェアハウスとデータレイク双方のアーキテクチャを一つの技術で実現する「レイクハウス」を実現する技術として、Open Table Formats(OTF)を推進してきました。
これにより実現するのが、データを複製せずに参照できる「zero-copy」(ゼロコピー)です。Celonisも、Databricksが開発したデータ共有プロトコルであるDelta Sharingに対応したことで、両社のデータを双方向にゼロコピーで連携できるようになりました。AIエージェントが業務フローに組み込まれる現在、データの鮮度は決定的に重要であり、データコピーの完了を待つ余裕はないと笹様は強調しました。
さらに笹様が重視したのが、コンテキストです。技術的なメタデータだけでなく、「売上」をグロスで捉えるのか、返品額を控除するのかといったビジネス上の意味合いを、Unity Catalogで意味情報として保持します。加えて、データの関連性と探索の優先順位を、データオントロジーによって整理することで、エージェントが全データを走査し、トークン消費が膨らむ事態を防ぎます。
「こうしたデータ側のコンテキストと、Celonisが備えるプロセスのコンテキストやKPIの定義を双方向に連携させることで、AIエージェントがエンドツーエンドで業務プロセス改を実行できる環境が整う」と笹様は述べ、対談セッションを締めくくりました。
基調講演の最後には、AIハッカソンの表彰式が行われました。今回で3回目となる本ハッカソンは2026年4月20日に開催されました。そこでは、参加各企業がCelonisのプロセスインテリジェンスと業務コンテキストを用いて、実務で抱えるさまざまな課題をAIでどう解決するかに挑戦。その結果、優れた取り組みを行った3社が表彰されました。
第3位は、調達リードタイムの適正化に取り組んだパナソニック デジタル株式会社様です。AIが過去の実績データから最適な調達期間を算出し、調達金額の大きい商材から優先的に調達条件を見直せる仕組みを構築しました。在庫の適正化と納期遵守率の向上を同時に実現する、実務に即した提案が高く評価されました。
第2位は、ネットワーク保守の障害対応迅速化に挑んだ日本電気株式会社様です。障害発生時のメールの確認から緊急度の判定、回答文の作成までをAIによって一気通貫で自動化し、担当者は内容を確認して送信するだけで済む仕組みを実現しました。現場での使いやすさを含めて考え抜かれた高い完成度が評価され、今後は100プロジェクトへの展開が期待されます。